鉄板神社
大阪市中央区に広がるミナミエリアは、難波、心斎橋、道頓堀、千日前の繁華街を中心に、観光客や地元の人々で常に賑わう大阪の顔とも言える場所です。ミナミの街に6店舗を展開する「鉄板神社」もまた、特徴的なデザインで、外観には神社をイメージした伝統的な装飾があしらわれ、街中でもひときわ目を引く存在です。観光客はもちろん、地元の人たちにも親しまれ、道行く人々の注目を集め続けています。
今回、鉄板神社を運営する株式会社寿幸の田中寿幸社長と、店舗の設計・デザインを手掛けたデザインボックス・エニウェイの宮田大輔さんに、「鉄板神社」の外観や看板などのデザインのこだわり、そして今後の展望についてじっくりとお話を伺いました。

右:株式会社 寿幸 代表取締役 田中 寿幸さん
◼︎街が語るミナミの看板文化
このエリアを象徴するのは、なんといってもド派手な動く看板や巨大なシンボル。どれもインパクト抜群で、まるで街のランドマークそのもの。これぞ大阪ミナミならではの風景です。
ミナミの看板がどんどん派手になっていったのには、いろいろな理由があります。大阪の繁華街はキタとミナミに大別され、キタ(梅田周辺)は地下街や高層ビルが中心の立体的な発展を遂げましたが、ミナミでは通り沿いに商店がぎっしり立ち並び、通行人の目を惹くために目立つ看板が求められるようになりました。
特に商業競争が激しいこのエリアでは、戦後の経済成長に伴い、個性的で大きな看板が次々と生まれ、いつしかミナミの街の風景の一部として定着しました。
◼︎大阪ミナミの魅力について
ミナミエリアに6店舗を展開するにあたって、最初はその魅力をあまり理解していなかったんですが、営業を続けるうちにだんだんその価値に気づいてきました。北新地にもお店はあるけれど、休日に賑わうミナミの方が売上効率が良いと感じたので、自然とミナミでの展開が増えていったんです。平日はビジネスマンや訪日客が多く、休日は買い物客や観光客が集まるミナミエリアは、ビジネス的にもすごく魅力的です。
観光地としての発展が目立つミナミエリアですが、「インバウンド需要は後から来たもので、20年前には予測していなかった」と話しています。それでも今では、連休の盛り上がりや観光客が集まる場所としてミナミが最適だということが分かっています。北新地(キタ)は金曜日に賑わいますが、土日や連休には人通りが少なくなるのに対し、ミナミは逆に連休になるとますます盛り上がるんですよね。この違いがビジネスの成否に大きく影響しているんです。日本は連休が多いので、連休に強いミナミでの展開が効率的だという考えに基づいて、次々とミナミでの店舗展開が進んでいるんです。

◼︎看板が街に与える影響
ミナミといえば、かに道楽の動く看板やグリコの巨大なシンボルが有名であり、看板が街に与える影響は非常に大きな要素です。繁華街や観光地としてミナミが成立している理由のひとつが、こうした象徴的な看板による集客効果にあります。看板が盛り上がっているエリアは活気があり、人を引きつける力が強い。店内が半分しか埋まっていないと「流行っていない店」と見られがちですが、満席で賑わっていれば「流行っている店」と感じられ、良い循環が生まれます。
また、看板や店舗の位置も重要で、わずかな立地の違いで人の流れは大きく変わります。たとえば、笠屋町筋と玉屋町筋は地図上では隣同士ですが、実際には流れる客層がまったく異なります。出店には、こうした微妙な差を見極める力が求められます。
看板はただの広告手段ではなく、ミナミの活気と魅力を支える存在です。デザインや設置場所への意識を持ち、地域に根ざした戦略を立てることが、繁華街としてのミナミのさらなる発展につながるのです。

◼︎鉄板神社の名前の由来とコンセプト

「鉄板神社」という名前の由来は、代表取締役 田中氏の幼少期の体験に深く根ざしています。
福井県の田舎町で育った田中氏は、村で年に3日だけ開催される漁師の祭りが唯一の楽しみであり、村全体がその祭りのために生きているような場所でした。子供ながらに「なぜこの祭りは年に3日しかないのか」と疑問を抱くようになった田中氏は、その思いから毎日が祭りのような雰囲気を提供したいと考えるようになりました。「神社=祭り」という日本の伝統文化を大切にし、毎日お客様に祭りのような体験を提供するために、「鉄板神社」と名付けました。
店内には神社をイメージした装飾が施され、来店されたお客様が祭り気分を楽しめる工夫が凝らされています。このように、幼少期の体験と日本文化への思いが、鉄板神社のコンセプトに深く根付いているのです。田中氏は「幼い頃、年に3日しか味わえなかった祭りを、今では毎日お客様に提供できている」と語り、その言葉には強い情熱が込められています。



鉄板神社のデザインは、単なる装飾を超えて、細部に至るまで徹底したこだわりが感じられます。外観には鳥居や狛犬、本坪鈴など、神社をイメージした伝統的な装飾があしらわれています。代表取締役の田中氏と設計・デザインの宮田氏は、デザインの方向性が合致しており、アイデアのやり取りもスムーズに進むため、田中氏は「これでいこう」と即座に決断することが多いと言います。
デザイン以外にもこだわりが詰まっています。たとえば、店内で流れる太鼓の音は、田中氏の生まれ育った村で実際に使用されている祭りの太鼓の音を録音し、そのまま再現したものです。この音が鉄板神社にも響き渡り、村の伝統を感じさせる独特の雰囲気を作り出しています。

◼︎店舗デザインのこだわり

宮田氏は、店舗デザインを「場」の創造と捉えています。単なる装飾ではなく、来店する客層やオペレーション、立地の特色を反映させた独自のアプローチが重要だと語ります。デザイナーとしては「本物の質感」を追求しながら、コストとのバランスを考え慎重に選択を進めています。鉄板神社の店舗はそれぞれが個性を持ちながら、全体として統一感を保つのが特徴です。
たとえば、総本店では大通り沿いの立地を活かし、視覚的な開放感を重視したオープンな設計が採用されています。一方、リニューアルした笠屋町店では、既存顧客の満足度を優先し、よりクローズな空間作りが行われています。さらに、オペレーション面も重要な設計要素のひとつです。標準的な寸法にとらわれず、効率的な動線を確保するため、デザインの細部にこだわりが見られます。大胆な設計が可能なのは、オペレーション能力の高いスタッフがいるからこそで、現場の声を反映しながら設計が進行しています。


鉄板神社はSNSによる集客やブランディングにも敏感です。
流行を無視せず常に動向を把握しつつ、「SNSで消費されてしまわないタイムレスなデザイン」を心がけています。
また、日本の伝統的な「わび・さび」の美意識を取り入れ、豪快さと繊細さが共存する空間作りも意識されています。なんばグランド花月前店では、水墨アートを取り入れ、活気ある雰囲気の中に繊細な美学を融合させることで独自の空間が生み出されています。このように、鉄板神社のデザインは、単に目立つだけでなく、店舗のコンセプトや田中氏の想いがしっかりと反映されています。それによって、訪れるお客様に特別な体験を提供し、他店にはない唯一無二の存在感を示しているのです。



ワクワク感を演出!
◼︎鉄板神社のおすすめメニュー
鉄板神社の料理は、他では味わえない独自の鉄板創作串料理が特徴です。大阪といえばお好み焼きや串カツが名物ですが、鉄板神社はそのイメージを一新し、衣を付けない串料理を鉄板で焼いて提供しています。
串に刺した料理を少しずつ楽しんでいただけるスタイルが好評で、オリーブオイルを使いあっさりと焼き上げることでいろいろな食材が楽しめます。手間をかけた料理だからこそ、素材の旨味が存分に引き出され他店では味わえない料理を楽しむ事ができます。




◼︎外国人観光客に人気のポイント

鉄板神社は外国人観光客からも高い評価を得ていますが、特に喜ばれるポイントは「丁寧で親しみやすい接客」と「料理の味」です。「旅行中のお客様が3日連続で来ることもあり、『ここが一番おいしい!』と、他にも行ける店があるなかで戻ってきてくれるんです」と話します。
アジア系の観光客に限らず、イタリア・ベネチアから来たお客様が「ボーノ!ボーノ!」と大絶賛したこともあり、鉄板神社の味は、世界どの地域のお客様にも満足してもらえる証です。
「うちはシンプルに味がすごいんです。接客も味も、すべてが揃っているからこそ、外国人観光客にも大変喜ばれています」と田中氏は語ります。
鉄板神社の魅力は、丁寧な接客とこだわりの味にあります。観光客が何度も足を運ぶ理由が、そこにあるのです。
ミナミエリアの鉄板神社
①三津寺笠屋町店 ②宗右衛門町店
③道頓堀店 ④総本店
⑤難波南海通り店 ⑥なんばグランド花月前店
◼︎インバウンドへのアプローチ
ミナミは観光地として世界的に知られていますが、鉄板神社では早くからインバウンド客への丁寧な対応を実践してきました。まだ多くの飲食店が外国人観光客を避けていた頃、鉄板神社は「どのお客様にも変わらず、誠意を持って接客いたします」という方針を掲げ、積極的に外国人観光客を受け入れました。特に写真付きの多言語メニューをいち早く導入し、その取り組みが功を奏して口コミで「外国人に優しい店」としての評判が広まりました。
現在ではSNSやYouTubeを通じて、世界中から多くの観光客が訪れています。スタッフは英語や中国語を使って接客することができ、外国人観光客とのスムーズなコミュニケーションが可能です。特別に語学が堪能なスタッフを採用しているわけではなく、現場で自然に学びながら少しずつ語学力を向上させています。


わかりやすい!
◼︎今後の展望と鉄板神社の未来
代表取締役の田中氏は、今後の事業展開について明確なビジョンを持っていないと語った。「事業計画を立てると、目標に固執しすぎてしまい、本来の目的を見失うことがある」と言います。目指すべきは、プロフェッショナルな社員を育成することであり、その数が増えれば自然と事業も拡大していくという考え方です。店舗数や売上を重視するのではなく、質の高いサービスを提供し続けることが鉄板神社の基本理念です。
「既存店のレベルアップを徹底することが重要であり、店舗の数を増やすのはその後の話」と強調し、顧客に満足してもらえる体制を整えるため、社員の育成に力を注いでいます。また、従業員同士で「ありがとう」と褒め合う文化が育まれており、これが鉄板神社の強みの一つです。褒め合うことで、社員のモチベーションを高め、サービスの質を向上させています。


「お客様に喜んでもらえることが新しい試みの根本であり、そのために躊躇することはない」と語り、複雑な経営戦略に頼ることなく、顧客のニーズに基づいた迅速な意思決定が行われています。また、業界全体が急速に変化する中で、過去の成功体験に頼ることなく、新たな戦略を模索していることも指摘されています。「過去20年間の経験を一度リセットして、新しい時代に合った方法で再スタートする」と述べ、未来への柔軟な姿勢を示しています。
このように、鉄板神社は、プロフェッショナルな人材の育成と顧客満足の向上を目指し、今後も社員の成長を支援し続け、地域社会に愛される店舗を目指していくことでしょう。
ミナミの街ならではの立体看板
◼︎「二度づけ禁止」串かつだるまのシンボル「だるま大臣」が立体看板に!
大阪・ミナミエリア、特に道頓堀のシンボルといえば、「カニ道楽」や「串かつだるま」など、大阪を代表する飲食店の立体看板が挙げられます。これらの看板は観光客にもおなじみで、道頓堀の風景に欠かせない存在です。
立体看板が注目を集める理由のひとつに、単なる情報提供を超えたエンターテインメント性があります。大阪は「商人の町」としての歴史を持ち、昔から商人たちはお客を楽しませる精神を大切にしてきました。立体看板にはその伝統が色濃く表れており、各店舗の個性を表現するとともに、ミナミエリア全体の活気を盛り上げ、街に一体感を生み出しています。さらに、外国人観光客にとっては、店の内容や雰囲気が一目でわかる点や、写真映えするデザインが魅力となっており、SNSを通じて大阪の魅力が世界に発信されるきっかけにもなっています。
今後も道頓堀の立体看板は、大阪の「楽しませる文化」と「商業精神」、さらに大阪人の「サービス精神」を象徴する観光資源として、単なる広告を超えて街のシンボルとなり訪れる人々を歓迎し、ミナミのエネルギッシュな雰囲気をより一層引き立て、賑わいを支え続けるでしょう。


◼︎変わる道頓堀の風景・多言語で表記される看板
道頓堀では巨大なカニやタコの看板が並ぶ「大阪らしい」風景に、近年さらに多国籍な魅力が加わっています。インバウンド需要の高まりを受け、英語・中国語・韓国語を中心とした多言語対応の看板が増え、観光客が安心して道頓堀を楽しめるように街づくりが進められています。
特に道頓堀は、食とエンターテインメントが集まるエリアで、多くの外国人観光客が訪れる人気スポットです。各店舗では、グルメやショッピングの案内をわかりやすく伝えるため、シンプルな表記やアイコンを活用し、迷わず楽しめる工夫がされています。
道頓堀の風景は時代とともに進化し、今後も国際的な観光地として、その魅力を発信し続けていくでしょう。

◼︎PANSHIROU TEZUKAYAMA
なんば道頓堀店
厳選された国産原材料を使用して焼き上げた食ぱんを販売。
道頓堀店は世界中から訪れる様々な国の人にも楽しんでいただけるよう多言語を用いた店舗デザインを取り入れています。
12ヶ国語で表記された”ぱん”の文字を立体的な樹脂文字で設置。世界中さまざまな国の方がみてもパン屋であることがわかります。



◼︎ぼてぢゅう本店® 道頓堀
1946年創業の人気お好み焼き店。
老舗でありながら常に進化を続ける姿勢で、長年に渡り人々に愛され続けています。
観光客でにぎわう戎橋筋にあわせて、日本語に加え英語・韓国語・中国語を看板に表記。お好み焼き「ぼてぢゅう」とひと目で伝わるようになデザインになっています。


